小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

乳幼児から膀胱刺激法で採尿する方法

 乳児の尿培養は、尿路感染症の診断に必須ですが、色々むずかしいです。新生児では、4Frくらいの非常に細いカテーテルを使って導尿しますが、特に女児では手技的に難しいです。理想的には、クリーンキャッチですが、世の中そんなうまくいきません。尿パック法は、効率にコンタミ(汚染)するので、使えません。

 この研究は、フランスで実施された乳幼児に、膀胱刺激を行い、排尿を促し、尿のクリーンキャッチを試みた研究です。特に生後半年未満の子での成功率が高く、不快感も少ないので、やってみる価値はありそうです。

 是非とも、動画を見て下さい!!

 

Evaluation of the Bladder Stimulation Technique to Collect Midstream Urine in Infants in a Pediatric Emergency Department.

PLoS One. 2016 Mar 31;11(3):e0152598.

 

はじめに

 小児の尿路感染症は頻度が高く、適切な診断と早期治療が行われない場合、腎瘢痕などの後遺症を引き起こすリスクがあります 。米国小児科学会(AAP)のガイドラインでは、診断のためには、中間尿を清潔な採取が推奨されていますが、排泄が自立していない乳幼児では実施が困難です

 採尿バッグによる採取は、非侵襲的であるものの、汚染率が40%〜62.8%と非常に高いことが知られています。一方、恥骨上穿刺や経尿道的導尿は、汚染を減らせますが、侵襲的です。本研究では、新生児で高い成功率が報告された非侵襲的「膀胱刺激法」を、より幅広い年齢層の乳幼児に適用できるか検証が行われました

 

方法

 本研究は、フランスのニース大学小児病院の救急外来において、2014年9月‐11月までの3ヶ月間に実施されました。対象は、尿検査を必要とした歩行開始前の2歳未満の乳幼児142例です。トレーニングを受けた4名の医師が手技を担当しました

 具体的な手順は、外陰部を温水と石鹸で洗浄し、看護師が児の腋窩を支えて足をぶら下げた状態に保ちます。次に、医師が恥骨上部を1分間に100回の頻度で30秒間優しくタッピングし、続いて腰部脊柱の両側のマッサージを30秒間行います。これを最大3分間繰り返し、排尿が始まったら別の看護師が中間尿を無菌容器に採取します

 

実際の手技のビデオ(必見!!)

S1 File. Bladder stimulation and paravertebral massage.

https://doi.org/10.1371/journal.pone.0152598.s003

 

 1回目が失敗した場合、水分摂取を行い、採尿バッグを装着し、30分後に2回目を最大3分間実施しました。主要評価項目は、2回目までの採尿の成功率と採取までの時間です。また、EVENDOLスコアを用いて、手技中および手技前後の児の不快感(4点以上を不快感ありと定義)を評価しました

 

結果

 142例(平均年齢4.7ヶ月、平均体重6.2kg)において、最終的な採尿成功率は55.6%でした。成功率は、1回目が42.3%、2回目が23.2%でした。尿採取に要した時間の中央値は52.0秒で、手技が成功する場合は比較的短時間で尿が採取できていることが示されました

 成功率は、年齢および体重と相関が見られました生後1ヶ月未満の新生児における成功率は88.9%であったのに対し、1歳以上の小児では28.6%まで低下しました。体重別では、4kg未満の群では85.7%の成功率であったものが、10kg以上の群では28.6%へと減少しました

 月齢と体重別の成功率

 

月齢と体重別の不快感

 

 EVENDOLスコアは、全体の58.5%の乳幼児が手技中に4点以上の不快感を示しました。ただし、不快感は手技中に高まるものの、手技終了から1分後および5分後の時点では、75%以上の児でスコアが4点未満に低下し、不快感が持続しないことが確認されました

 多変量ロジスティック回帰分析の結果、膀胱刺激法の失敗に関連する独立したリスク因子として、「体重(調整オッズ比 1.47)」および「手技中の不快感(調整オッズ比 6.65)」が抽出されました。これは、体格が大きく力が強い児ほど、手技中の適切な固定が困難になり、児のストレス増大と成功率の低下につながることを示唆しています

 

考察

 本研究の結果から、膀胱刺激法は特に生後6ヶ月未満の低月齢の児において、有用な採尿アプローチになり得ることが示されました。乳幼児の自動排尿反射や、腹圧上昇時に排尿を抑制する外尿道括約筋の保護反射(Guarding reflex)が未発達である機序を利用したこの手技は、生理学的に合致しています

 しかし、月齢や体重が進むにつれて成功率が低下する点は、実臨床に導入する上での留意事項です。中枢神経系による排尿抑制が発達し始めると、身体拘束されることへの不快感が強まり、反射を阻害し失敗因子になると考えられます。また、手技に合計3名の医療スタッフを要する点も、人員に限りのある救急外来での運用における課題です

 児の不快感を軽減するために、音楽やディストラクションを併用するなどの工夫により、成功率が改善する可能性があります。本研究は単一施設での検討であり、今後はカテーテル導尿や採尿バッグとの直接的な時間的・経済的コスト、汚染率を比較するランダム化比較試験によるさらなる検証が望まれます

 

結論

 膀胱刺激法と腰部マッサージを組み合わせた採尿手技は、生後6ヶ月未満の児において、非侵襲的かつ迅速に中間尿を採取できる優れた代替手法です。手技中に軽度から中等度の不快感を伴うものの、影響は一時的で、侵襲的な処置を回避できるメリットは大きいと考えられます

 体格の大きな児では成功率が低下する点やマンパワーの確保といった運用の課題を理解した上で、小児科や救急外来における選択肢の一つとして検討する価値が十分にあります

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

MSSA菌血症にセファゾリンは非劣性か?90日死亡率と急性腎障害リスクを検証したランダム化比較試験

 MSSA菌血症に対する標準的な治療薬は、世界的にはオキサシリンなどのブドウ球菌用ペニシリンですが、日本では入手困難です。そのため、セファゾリンが標準的に使用されますが、MSSA髄膜炎を合併している症例の場合には、セファゾリンの髄液移行性が低いため、悩ましい課題となっていました。

 今回、MSSA菌血症に対して、ブドウ球菌用ペニシリンとセファゾリンの効果を検討した研究が出ました。成人では、セファゾリンは非劣勢であり、かつ、副作用も少ないという結果でした。

MSSA菌血症治療におけるセファゾリンとペニシリンの有効性と安全性を、臨床試験データに基づき比較したインフォグラフィック。

Cefazolin for Methicillin-Susceptible Staphylococcus aureus Bacteremia.

N Engl J Med. 2026 Jun 18;394(23):2329-2339. 

 

はじめに

 黄色ブドウ球菌菌血症は死亡率が高い感染症の一つです 。メチシリン感性黄色ブドウ球菌(MSSA)菌血症の治療では、セファゾリンと抗ブドウ球菌ペニシリンのどちらを第一選択とすべきか、これまで明確な結論が出ていませんでした

 一部のガイドラインでは、セファゾリンのインノキュラム効果への懸念から、抗ブドウ球菌ペニシリンを好む意見もありました

 そこで、MSSA菌血症におけるセファゾリンの有効性と安全性をランダム化比較試験で厳密に検証するため、国際的な大規模臨床試験であるSNAP試験が実施されました

 

方法

 本研究は、世界8カ国91施設で実施されたオープンラベルランダム化比較試験です 。対象は18歳以上の成人入院患者で、ペニシリン耐性かつメチシリン感受性の黄色ブドウ球菌菌血症と確認された症例です

 参加者は、セファゾリン群(2gを8時間ごと、重症時は6時間ごと)または抗ブドウ球菌ペニシリン群(フルクロキサシリンまたはクロキサシリンを投与)に1対1の割合でランダムに割り当てられました。なお、成人とは別に小児を対象とした試験も並行して継続されています

 主要評価項目は、90日以内の全原因死亡率と定義されました。また、重要な副次安全評価項目として、投与開始から14日以内の急性腎障害(AKI)の発症頻度などが設定されました

 

結果

 中間解析においてセファゾリンの非劣性基準が満たされたため、登録は2024年8月に早期終了となりました。最終的に主要解析の対象となったのは、セファゾリン群645例、抗ブドウ球菌ペニシリン群642例の計1287例です

 90日死亡率は、セファゾリン群が15.0%(97/645例)、抗ブドウ球菌ペニシリン群が17.0%(109/642例)でした。調整オッズ比は、0.81(95%信用区間: 0.59〜1.12)でした

 14日以内の急性腎障害の発症率は、セファゾリン群が13.9%であったのに対し、抗ブドウ球菌ペニシリン群では19.6%と有意に高く、セファゾリンの安全性の優越性が示されました

 有害事象による治療中止の割合についても、セファゾリン群は抗ブドウ球菌ペニシリン群と比較して有意に低いという結果が得られています。プロトコールを遵守した集団を対象とした解析でも、主要解析と同様の傾向が確認されました

 

考察

 本試験の結果は、MSSA菌血症の治療においてセファゾリンが有効性と安全性の双方で優れた選択肢になり得ることを示しています

 抗ブドウ球菌ペニシリンの腎毒性は知られていましたが、今回の比較試験により、リスクが改めて証明された形となります

 理論的に懸念されていたセファゾリンのインノキュラム効果について、今回の結果からは予後を悪化させるような明らかな影響は見出されませんでした。感染性心内膜炎のサブグループ解析でも、全体と同様の良好な傾向がみられています

結論

 成人のペニシリン耐性MSSA菌血症において、セファゾリンによる治療はフルクロキサシリンやクロキサシリンといった抗ブドウ球菌ペニシリンに対して、90日死亡率の観点から非劣性であることが確認されました

 セファゾリンは、急性腎障害の発症率や有害事象による治療中止のリスクが有意に低いというメリットも示されました。これにより、MSSA菌血症の標準治療におけるセファゾリンの位置づけは、より強固なものになったと言えます

www.nejm.org

AIチャットボットはHPVワクチン接種意欲をどこまで高めるか?

 ワクチン忌避の保護者に対しては、公衆衛生機関が用意する資材では、接種率があまり上がりません。LLMを用いたチャットボットでは、どうかという研究です。なかなか難しいことに変わりはありませんが、共感性のある回答をできるなど、メリットも有るようです。

 

Large Language Model Chatbot Conversations vs Public Health Materials and Parental HPV Vaccination Intentions: A Randomized Clinical Trial.

JAMA Netw Open. 2026 Jun 1;9(6):e2616822.

 

はじめに

 ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンは、子宮頸がんや咽頭がんなどを予防する有効な手段です。しかし、米国における思春期の接種率は約60%となっています。接種が進まない背景には、保護者のワクチン忌避(ヘジタンシー)が関係しています

 近年、医療現場や公衆衛生機関では、保護者とのコミュニケーションを補完する手段としてAIツールの活用が模索されています。大規模言語モデル(LLM)をベースとしたチャットボットは、説得力のあるメッセージを生成できるため注目を集めています。標準的な公衆衛生資材と比較した有用性は十分に明らかになっていませんでした

 本研究は、短時間のLLMチャットボットとの対話が、従来の公衆衛生資材と比較して、保護者のHPVワクチン接種意欲にどのような影響を与えるかを検証しました

 

方法

 本試験は、2025年3月3日から5月25日にかけて、米国、カナダ、英国の保護者を対象にオンラインで実施されました。対象は、11歳から17歳(英国は12歳から17歳)のHPVワクチン未接種、または接種状況が不明な子どもを持つ保護者1,297人です。ベースライン調査の1週間後に介入調査を行い、その後15日目と45日目に追跡調査を行いました

 参加者は4つのグループにランダムに割り当てられました1つ目は介入を行わない対照群です。2つ目は、各国の政府機関が作成した公衆衛生資材を最低3分間閲覧する群です。3つ目はGPT-4oを用いたLLMチャットボットと最低3分間対話する群です。4つ目は1メッセージ3文以内の会話型スタイルのチャットボットと対話する群です

 主要評価項目は、介入直後における「今後12か月以内に子どもにHPVワクチンを接種させる可能性」の自己評価とされました。評価には0点から100点までのスケールが用いられます。また、副次評価項目として、15日目と45日目の接種意向の推移、および実際の接種状況が自己報告により調査されました

 

結果

 介入直後、無介入群と比較してすべての介入群で接種意向の有意な上昇が認められました 介入直後、公衆衛生資材と通常型チャットボットの効果に統計的な有意差はありませんでした

 しかし、介入15日目の時点では、公衆衛生資材群と会話型チャットボット群が接種意向を維持していましたが、通常型チャットボット群は有意差がなくなりました介入45日目、無介入群に対して有意な効果を維持していたのは、公衆衛生資材群のみとなりました

 接種行動の結びつきは、15日目および45日目のいずれの時点においても、すべての介入群において無介入群との間に有意な差は見られませんでした。なお、チャットボット群は対話にかける時間が、公衆衛生資材群より平均約70秒長かったものの、これが長期的な接種意向の維持には寄与しなかったことが示されています

 

 

考察

 本研究は、短時間のAIチャットボットとの対話が、従来の公衆衛生資材を凌駕するものではない可能性を示唆しています。チャットボットは、保護者のワクチン忌避理由に応じた柔軟な返答ができるものの、その効果は一時的なものに留まり、45日後まで接種意向を維持させることはできませんでした。これに対し、公衆衛生資材が細く長く効果を維持した点は注目に値します

 接種率が向上しなかった理由として、HPVワクチンの接種には医療機関の予約や受診が必要であるという構造的なハードルが挙げられます。テキストによる介入だけでは、予約の手間や日々の忙しさ、医療制度への信頼感といった複雑な要因を解決することは困難です

 一方、チャットボットの有用性が否定されたわけではありません 保護者は通常型のチャットボットに対して公衆衛生資材よりも高い共感性を感じ、自発的に長い時間を費やしていましたチャットボットは、既存の資材を代替するのではなく、具体的な疑問に答える補助的な相談窓口として組み合わせることで、より効果を発揮すると考えられます

 

結論

 保護者のHPVワクチン忌避に対し、LLMを用いた短時間のチャットボット介入は直後の接種意欲を向上させるものの、その効果の持続性は公衆衛生資材よりも限定的でした 。一時的な意識変容だけでは、実際のワクチン接種行動を促すには至らないことも確認されました

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

小児UTI治療における抗菌薬の個別化期間 vs 10日間投与:有効性と安全性を検証した多施設共同RCT

 尿路感染症UTIの治療期間は、小児では、議論を呼ぶ話題です。短縮を図る研究は色々あり、SCOUT study(Short-Course Therapy for Urinary Tract Infections in Children: The SCOUT Randomized Clinical Trial)などが有名です。標準的な10日間治療と比較して、5日間治療は治療失敗リスクが増えるけど、治療反応反応の良い例なら。5日間で十分かもしれないというところです。個人的には、治療反応の良い症例では、基本的には7日間の治療を行っています。

 この研究は、解熱などの臨床症状が改善後して3日間で抗菌薬を中止したという研究です。尿路奇形がある症例や再発症例、菌血症などの重症例は除外されています。また、初期抗菌薬は、ほとんどアモキシシリン・クラブラン酸の内服(!)が使用されており、oral switchはあまり考えていません。

 

要点
・個別化群(短期治療群)では、28日以内の再発率が6→11%に増加した。
・しかし、抗菌薬曝露減少、副作用減少などの効果もある。
・100日間での再発率は非劣勢だった。
・短期治療で十分な症例がどのような症例なのか、検討が必要。

 

Efficacy and safety of individualised versus standard 10-day antibiotic treatment in children with febrile urinary tract infection (INDI-UTI): a pragmatic, open-label, multicentre, randomised, controlled, non-inferiority trial in Denmark.

Lancet Infect Dis. 2025 Aug;25(8):925-935.

 

 

はじめに

 小児の発熱性尿路感染症(UTI)は日常診療で頻繁に遭遇する疾患であり、特に乳幼児期に多く見られます 。現在の標準的なガイドラインでは10日間の抗菌薬治療が推奨されていますが、最適な投与期間に関する明確なエビデンスは未だ十分に確立されていません本研究は、患者の臨床症状に基づいた個別的な短期間投与の非劣性と安全性を検証する目的で実施されました

 

方法

 本試験(INDI-UTI)は、デンマークの8病院で実施された非盲検ランダム化比較試験です。対象は生後3ヶ月から12歳までの、発熱を伴い尿培養で有意な病原菌の発育が確認された小児408名です。主な除外基準は、既知の尿路奇形や敗血症・菌血症、血清クレアチニンの上昇、再発性UTI、UTI予防内服中などです

 参加者は個別化投与群(205名)と標準10日間投与群(203名)に1対1でランダムに割り付けられました個別化群は、解熱や臨床症状(側腹部痛や排尿痛など)の改善後、3日間抗菌薬を継続して終了するものとし、最低投与期間は4日間と設定されました

 主要評価項目は、治療終了後28日以内のUTI再発率(非劣性マージン7.5%)および治療開始28日以内の総抗菌薬投与日数です。安全性として、28日以内の抗菌薬関連副作用や、100日以内の重篤な有害事象(全死亡や敗血症性ショック、入院など)も評価されました

 

 

結果

 個別化群の抗菌薬投与期間の中央値は5.3日間であり、標準群の10.0日間と比較して有意に短縮されました 。治療終了後28日以内のUTI再発率は、個別化群で11%(23/205名)、標準群で6%(12/203名)であり、群間差は5.3%でした 。これにより、事前に設定された非劣性基準を満たしませんでした

 一方で、治療開始28日以内の総抗菌薬投与日数は個別化群が6.0日、標準群が10.0日であり、個別化群で有意な抗菌薬曝露の減少が確認されました。また、抗菌薬に関連する有害事象(下痢や嘔吐など)の発生率は、個別化群で100患者日あたり6.8日、標準群で11.1日であり、個別化群で有意に低い結果でした

 なお、100日以内の全原因による入院などの重篤な有害事象については、個別化群で8%(17名)、標準群で7%(15名)発生し、両群間で有意な差は見られませんでした。また、二次評価項目である100日以内の再発率に関しては、両群の差が1.8%となり非劣性が示されました

 

 

考察

 本研究の結果、症状に合わせた抗菌薬期間の短縮は、短期間におけるUTIの再発リスクを5.3%高めることが示されました。この結果は先行する米国のSCOUT試験とも整合性がありますが、5日間の非劣性を認めたイタリアのSTOP試験とは異なる結果となっています

 しかし、注目すべきは100日時点での再発率の差については、非劣性が示されました。短期間治療は、不完全な除菌による早期再発を招く可能性があるものの、長期的な視点ではマイクロバイオームへのダメージを和らげ、結果的に遠隔期の病原菌定着を防ぐ好影響があると考えられます

 また、再発の多くは発熱を伴わない軽症のUTIであり、腎瘢痕形成のリスクが低いものでした。事後解析(DOORおよびRADARアプローチ)において、有害事象の少なさや抗菌薬曝露期間を総合的に勘案した評価では、個別化群の方が優れた治療結果であると判定されています

 

結論

 小児の発熱性尿路感染症に対する抗菌薬の個別化短縮投与は、28日以内の再発リスクをわずかに上昇させるものの、総抗菌薬曝露量と抗菌薬に伴う有害事象を有意に減少させることが明らかになりました。これは、抗菌薬適正使用を推進する上で大きな意義を持ちます

 一律に期間を短縮すると一部の患児で再発を招くため、今後はどのような症例で10日間の標準治療が必要となるかを特定するスクリーニング基準の構築が望まれます 。本研究の臨床的バランスを考慮し、日々の小児診療における治療戦略の選択に役立てていただければ幸いです。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

小児発熱性好中球減少症の抗菌薬はいつまで?早期中止の安全性を検証したRCT

 小児のFNで、いつ抗菌薬をやめるかは、悩ましい問題です。低リスクのFNでは早期終了の流れが出てきていますが、高リスクFNについては、骨髄回復までが一般的です。この研究では、高リスクのFNでも、安全性を損ねること無く、早期終了が可能との結論を出していますが、AMLの寛解導入などでは、注意が必要そうです。

 

小児急性白血病の抗菌薬早期中止と継続の安全性を比較したインフォグラフィック。

 

Early stoppage of empirical antibiotic therapy in paediatric acute leukaemia with high-risk febrile neutropenia: a randomized, open-label, phase 3, non-inferiority trial.

EClinicalMedicine. 2025 Oct 30;90:103610. 

 

はじめに

 小児の急性白血病における寛解導入化学療法中、発熱性好中球減少症(FN)は頻度が高く、重篤化しやすい合併症です。発熱以外に感染兆候が出にくく、速やかな経験的抗菌薬治療(EAT)の開始が必要です。既存のガイドラインでは、低リスクFNにおいては早期の抗菌薬中止が容認されつつあります

 一方で、高リスクFNの患者様に対しては、感染源が特定されず解熱した場合でも、骨髄機能が回復するまでEATを継続することが推奨されてきました

 しかし、不要な抗菌薬の長期投与は耐性菌の増加や入院期間の長期化を招き、医療経済的にも負担となります。本研究は、高リスク小児FNにおける抗菌薬早期中止戦略の安全性と有効性を検証するために実施されました

 

方法

 本試験は、インドのAIIMSで2018年10月から2024年8月にかけて実施された、単施設オープンラベル・フェーズ3・非劣性ランダム化比較試験です。対象は寛解導入化学療法中に高リスクFNを発症した2歳から18歳までの急性白血病(ALL、AML)の小児患者様です

 エントリー基準は、抗菌薬投与により72時間以上解熱し臨床的に安定していること、血液培養陰性が確認されていること、好中球数が500未満であることです。条件を満たした280人が、好中球数の回復を待たずに抗菌薬を中止する「中止群」と、好中球数が500以上に回復するまで継続する「継続群」に1:1の割合でランダムに割り付けられました 。主要評価項目は発熱の再発率です。

 

結果

 解析対象となった278人(中止群140人、継続群138人)において、主要評価項目である発熱の再発率は、中止群で52.1%(73/140人)、継続群で47.1%(65/138人)でした 。両群の差は5.0%(90% CI: -4.8 〜 14.8)であり、信頼区間の上限が事前に設定した15パーセンテージポイントを下回ったため、中止群の継続群に対する非劣性が証明されました

 ランダム化後の抗菌薬投与期間の第2四分位数(中央値)は、中止群が4.2日であったのに対し、継続群は11日と、中止群で有意に短縮されました(p < 0.0001。二次評価項目である全死亡率(中止群5.0% vs 継続群7.9%)、再入院率、3rd line抗菌薬や抗真菌薬の使用割合、臓器管理サポートの必要性などについては、両群間で有意な差を認めませんでした

考察

 本研究の結果から、臨床的に安定し解熱が維持されている小児の高リスクFNにおいて、好中球数の回復を待たずに経験的抗菌薬を中止する戦略は、発熱の再発や重症化リスクを有意に高めることなく、安全に抗菌薬への曝露量を減らせることが示されました

 ただし、初発の急性骨髄性白血病(AML)の患者様においては、中止群の発熱再発率が71.1%に達し、継続群の47.2%と比較して高値を示しました。AMLは、ALLと比較して骨髄抑制がより深く長期化しやすいため、一律に早期中止を適用するのではなく、疾患の背景や治療強度に応じた慎重な判断が必要と考えられます

 

結論

 寛解導入化学療法中の小児急性白血病に伴う高リスクFNにおいて、72時間以上の解熱と臨床的安定が得られた後であれば、好中球数が回復する前に経験的抗菌薬を中止する戦略は、従来の継続管理に対して非劣性であることが確認されました

 このアプローチは、安全性に影響を及ぼすことなく抗菌薬の投与期間を大幅に短縮し、耐性菌管理や医療費抑制に寄与するものです

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov