インフルエンザの診断において、AI搭載の検査機器(nodoca)(
AI搭載インフルエンザ検査医療機器nodoca|nodoca)が保険適応になっています。抗原検査のように痛くないというメリットがある反面、ウイルスそのものを捉えていないため感度・特異度が十分なのかという疑問はあります。(メーカーとしては、感度76%、特異度88%としていますが)
この検査機器は、咽頭後壁のリンパ濾胞(通称いくらサイン)を参考にしていますが、他のウイルス感染症でも見られることがあるので、検査結果の判断には注意が必要です。
長崎から、迅速抗原検査とnodocaの検査特性の違いを明確にした非常に有用な論文が出ましたので、インフルエンザ流行前に読んでおくことをおすすめします。
要点:発症初期の小児では有用性があるかもしれないが、(特に他のウイルス疾患と鑑別が必要な場面において)感度・特異度とも低い可能性がある。
・AI診断と迅速抗原検査の陽性一致率は47%、陰性一致率は71%。
・AI診断は、発症から24時間以内・小児で陽性になりやすい。
・SARS-CoV-2陽性患者の23%が、AI診断でインフルエンザ陽性と診断された。
| AI陽性 | AI陰性 | |
| 抗原検査陽性 | 125 | 144 |
| 抗原検査陰性 | 127 | 317 |
Infectious disease diagnosis by artificial intelligence (AI): Differences in patient backgrounds and symptoms between antigen test positives and novel AI-powered pharyngeal endoscopy test positives.
PLOS Digit Health. 2026;5(2):e0001233.
はじめに
季節性インフルエンザの迅速診断は、治療方針の決定や感染拡大防止に極めて重要な役割を果たしています。従来は鼻咽頭拭い液を用いた迅速抗原検査(Ag検査)が主流でしたが、咽頭後壁のリンパ濾胞(いわゆるインフルエンザ濾胞)などの画像所見と臨床情報を統合して判定するAI搭載咽頭内視鏡システムが日本で実用化されました。本システムは非侵襲的な検査法として期待されていますが、従来の抗原検査とどのような患者背景や症状の違いがあるのかは十分に明らかになっていませんでした。
実臨床において、迅速抗原検査とAI診断システムの判定結果を直接比較し、陽性となる患者背景や臨床像の特徴を検討しました。
方法
本研究は、長崎県の佐世保記念病院および森山内科において、2024年2月から2025年3月にかけて実施された横断研究です。5歳以上で発熱外来を受診し、インフルエンザおよび新型コロナウイルス(COVID-19)の迅速抗原検査とAI診断の両方を受けた患者が登録されました。
登録された864名のうち、画像認識が完了した813名を解析対象としました。AIシステムには、年齢、性別、発症からの経過時間、周囲の感染者との接触歴、解熱薬の使用歴、ワクチン接種歴、臨床症状などの情報が入力され、専用カメラで撮影された咽頭画像とともに診断が行われました。
解析では、COVID-19抗原陰性例を対象として、抗原検査陽性群とAI検査陽性群の一致率や発症から検査までの時間を評価しました。さらに多変量ロジスティック回帰分析を用いて、抗原陽性例とAI陽性例における背景や症状の差異を算出しました。また、COVID-19抗原陽性例におけるAIの偽陽性例についても詳細な検討を行いました。
結果
COVID-19抗原陰性であった713例において、抗原検査を基準とした場合のAI診断の一致率は62%(442/713例)、陽性一致率は47%(125/269例)、陰性一致率は71%(317/444例)でした。また、AI陽性かつ抗原陰性となる症例は、成人よりも15歳未満の小児で有意に多く認められました(オッズ比 3.1, p<0.001)。
発症から検査までの時間の中央値は、AI陽性/抗原陰性群で18時間、両者陽性群で24時間、AI陰性/抗原陽性群で27時間であり、AI陽性例は抗原陽性例に比べて有意に早期に受診していました(p<0.001)。この傾向は小児において特に顕著でした。
AI陽性/抗原陰性群とAI陰性/抗原陽性群を比較した多変量解析では、AI陽性群において小児(15歳未満:オッズ比 3.4)、発症24時間未満の受診(オッズ比 2.6)、感染者との接触歴(オッズ比 4.6)、咳嗽(オッズ比 11)、38.0℃以上の発熱(オッズ比 5.6)が有意に多い結果となりました。
一方、COVID-19抗原陽性かつインフルエンザ抗原陰性の99例中、23例(23%)がAIによってインフルエンザ陽性と誤判定されていました。これらの症例はPCR検査にてCOVID-19陽性・インフルエンザ陰性が確認されています。

考察
本研究の結果は、抗原検査とAI診断が捉えている生体現象の違いを示しています。抗原検査は病原体のウイルス量を検出する検査であるのに対し、AIシステムはウイルス侵入に対する生体の局所免疫反応(咽頭濾胞の形成など)を検出しています。
咽頭後壁のリンパ濾胞は発症後約8時間の早期から出現するとされているため、ウイルス量が十分に増加していない発症初期(24時間未満)においてAI診断が優位性を持つと考えられます。小児は、強い局所免疫応答を示すため、AIでの陽性判定が出やすいと推察されます。
臨床現場における留意点として、AI診断の特異度と他疾患の鑑別が挙げられます。本研究で示されたように、COVID-19感染症でも咽頭後壁に類似の濾胞や発赤を形成することがあり、AIがこれをインフルエンザと誤認するリスクが確認されました。
したがって、流行状況や周囲の感染歴、発症からの経過時間を総合的に判断することが重要です。発症初期の小児ではAIの活用が有用な選択肢となる一方、発症後時間が経過した症例や他ウイルスとの鑑別が必要な場面では、従来の抗原検査や核酸増幅検査を適切に組み合わせる必要があります。
結論
本研究により、インフルエンザAI咽頭内視鏡診断システムは、発症後早期に受診した小児や、発熱・咳嗽などの典型症状および接触歴を有する患者において陽性となりやすい特性が示されました。
鼻咽頭拭い液の採取が困難な小児の早期診断において、AIシステムは有用な補助ツールになり得ます。ただし、COVID-19をはじめとする他の呼吸器ウイルス感染症による咽頭所見との重複による偽陽性の可能性も念頭に置く必要があります。
検査モダリティごとの検出原理の違いを正しく理解し、受診タイミングや臨床所見に応じた柔軟な使い分けを行うことが、精度の高い外来感染症診療につながると考えられます。




