小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

Borrelia burgdorferi (Lyme病)について

病態生理と免疫
 Lyme病は、スピロヘータであるBorrelia burgdorferiによって起こされる疾患である。B. burgdorferiは、らせん状で微好気性菌で、発育は緩徐で、選択培地が培養には必要である。3個の表面蛋白(OspA, OspB, OspC)と41-kdの鞭毛のタンパク質が、ヒトの免疫反応の重要なターゲットである。
 Lyme病は、人畜共通感染症であり、複雑な病態生理がある。ダニにヒトが咬まれることにより、感染が成立する。まずは、刺傷部位に局所の炎症が見られ、遊走性紅斑(erythema migrans)と全身症状が見られる。数日から数週間かけて、菌体は血流に乗って、全身に播種し、眼、筋肉、骨、滑膜、中枢神経系、心臓などに広がる。血液や感染が起きた臓器からB. burgdorferiが検出されることもある。宿主側の因子により炎症反応が強く出現し、さらに組織障害を悪化させることもある。無治療のままであると、菌体は組織内に長期間生存するので、症状が数ヶ月にも渡ることがある。
 
疫学
 Lyme病は世界中で起きるが、流行状況は各地で異なる。USでは、10州から全患者の90%以上が報告されている。特にNew England南部〜東部中部大西洋沿岸に多い。ヨーロッパでは、スカンジナビア半島中欧で多い。USでは2013年に年間27,203名の患者が報告されている。患者数は増加傾向である。コネチカット州では、患者が多く、人口10万人あたり75例の報告がある。最も多い年齢層は5−14歳であり、夏季に多い。
 
生態学
 Lyme病は、人畜共通感染症である。IxodesというダニによりB. burgdorferiがヒトに感染する。ダニは、B. burgdorferiを保菌している小動物を吸血してから、ヒトに感染させるようになる。シカは、ダニの成虫の重要な宿主であるが、B. burgdorferiは保菌しない。多くのLyme病は、deer tickの若虫によってヒトに感染する。その理由としては、若虫は成虫より数が多く、咬まれても多くのヒトが気づかないためである。
 
臨床症状
 Lyme病の症状は、3期に分類される。Early localized disease(限局性早期), early disseminated disease(拡散性早期), late disease(晩期)の3つである。
 
Early localized disease
 最初のLyme病の症状は、典型的な輪状皮疹である遊走性紅斑(erythema migrans)である。およそ2/3の小児患者で1箇所の遊走性紅斑を認める。遊走性紅斑は、ダニの刺し口に生じる。ダニに刺されてから約7−14日後(3−32日の範囲)で生じる。通常、環は1重であるが、ターゲット状の皮疹もある。時に、中心部が丘疹になったり壊死する。皮疹は、そう痒感、疼痛を伴うこともあるし、無症状のこともある。全身症状(発熱、筋肉痛、頭痛、倦怠感)の程度はまちまちである。もし治療されない時には、皮疹は緩徐に拡大し、平均15cmくらいになる。時に30cmを超え、1−4週間持続する。部位は、全身のどこでも起きうるが、多いのは、頭部と頸部である。
 
Early disseminated disease
 約1/4の患者はearly disseminated diseaseの診断を受ける。初期の感染症状が認められてから、数日から数週間で二次性の遊走性紅斑を発症する。この時期の皮膚病変は、初期よりも小さく、しばしば、発熱、筋肉痛、頭痛、倦怠感を伴う。結膜炎、リンパ節腫脹なども伴う。2%の症例で髄膜炎を合併する。心炎を合併すると、伝導ブロックが見られ、1%未満の症例には完全房室ブロックが認められる。
 神経合併症もあり、脳神経症状を認めることもある。顔面神経麻痺が最も多く、3−5%の症例で認める。顔面神経麻痺がLyme病の唯一の症状であることもある。麻痺は2−8週間で通常は完全に回復する。顔面神経麻痺が抗菌薬投与により臨床経過が良くなるというエビデンスは無い。神経根炎も合併する。
 
Late disease
 関節炎が最も多い症状である。7%の小児例で認める。大関節に病変が見られ、90%以上の症例で膝関節炎が見られる。関節腫脹・疼痛が見られるが、疼痛と可動域制限は軽度であることが多い。抗菌薬の開始により、4−7日で改善が見られ、2−6週間で完全に回復する。関節炎が再発したり、持続する症例は10−20%である。Baker嚢胞が見られることもある。まれに、免疫反応による慢性関節炎を生じることがあるが、小児では極めて稀である。この時期の中枢神経症状は小児では極めて稀である。
 
 
 

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検査
 ルーチンの血液検査はLyme病の診断には役に立たない。B. burgdorferiを患者検体から検出したら、診断になるが、専用培地、検出までに4週間程度要する、感度も低いなどの問題から、あまり行われない。PCRも感度は高くない。そのため、Lyme病の診断は抗体診断がメインとなる。典型的には、感染後3−4週間でIgM抗体が陽性となる。6−8週間でピークを迎える。特異的IgG抗体は、感染後4−8週間で要請となり、3−6ヶ月でピークを迎える。EIA法が用いられるが、偽陽性が起こり得るため、特異的抗体の診断にはWestern blot法を用いる。ガイドラインでは、2スッテプでの診断を推奨している。EIA法で、陽性または判定不能となった症例において、Western blot法を行い、これが陽性となったら、診断する。VIsE C6に対する特異抗体を用いると、感度も高く、1ステップで診断できる。
 
治療
Early disease
・遊走性紅斑またはearly disseminated disease
 ドキシサイクリン 14日間 または、アモキシシリン 14日間
 (代替薬は、セフロキシム、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン)
・顔面神経麻痺、または、他の脳神経症
 上記のレジメン 14−21日間
・心炎 
 1°または2°房室ブロック 遊走性紅斑と同じ治療
 3°房室ブロック 髄膜炎と同じ治療
髄膜炎 
 セフトリアキソン(またはセフォタキシム) 14日間、または、ペニシリンG 14−28日間
 
Late disease
・中枢・末梢神経症
 髄膜炎と同じ治療
・関節炎
 遊走性紅斑と同じ治療を28日間
 
Jarisch-Herxheimer反応に注意が必要。
 
日本国内での情報
感染症法の四類感染症になる。直ちに保健所に届け出る。
・日本では、1999年から2018年までに231例の報告がある。北海道で最も患者数が多い。
・ライム病の血清診断に関する問い合わせは、国立感染症研究所 細菌第1部 第4室 川端寛樹先生
 
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