小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児におけるダプトマイシンのエビデンスのまとめ

 
 ダプトマイシンは、成人においては、重症MRSA感染症の重要な治療薬となり、国内のガイドラインでは菌血症の第一選択薬としてバンコマイシンと併記されています。しかし、小児において(特に乳児)は、動物実験での副作用の懸念、使用経験の少なさから、保険適応はありません。しかし、実際には、副作用でバンコマイシンによる治療ができない、バンコマイシンでの治療失敗例には、ダプトマイシンを選択したくなります。
 小児領域のダプトマイシンのエビデンスをまとめました。
 
(1)Daptomycin Use in United States Children’s Hospitals
   Larru B, et al. J Pediatric Infect Dis Soc. 2015;4:60.
要約:米国ではダプトマイシンの使用は小児専門施設によるばらつきが大きい
米国の小児病院で2004年1月から2012年12月の期間の、ダプトマイシンの使用を調査した報告。794名(1035入院)に使用していた。47.3%の症例は10歳未満。1/3の症例は血液腫瘍科であった。使用期間の中央値は5日間。
 ダプトマイシンの半分以上が6病院で使用され、1病院で全てのうち24%を使用していた。副作用は、7名に横紋筋融解、1名に好酸球性肺炎が認められた。
 
(2)Single-dose Pharmacokinetics of Daptomycin in Pediatric Patients 3–24 Months of Age
   Bradley JS, et al. Pediatr Infect Dis J 2014;33:936
要約:乳児では成人よりも高用量のダプトマイシン投与が必要かもしれない
 Phase 1の多施設オープンラベル試験。月齢3-6ヶ月、7-12ヶ月、13-24ヶ月の3つのグループに患者を分け、ダプトマイシンを静注した。13-24ヶ月には6mg/kg、それより若い年齢では4mg/kgを投与した。ダプトマイシンの血中濃度を測定した。
 24名の患者で検討を行った。月齢3-6ヶ月、7-12ヶ月、13-24ヶ月で、AUCは215μg・h/mL, 219μg・h/mL, 282μg・h/mLになった。最高血中濃度は、38.7, 37.1, 67.0μg/mLであった。ダプトマイシン単回投与は、忍容性良好であり、副作用はなかった。乳児では、成人よりも高用量のダプトマイシン投与が必要である可能性がある。
 
(3)Clinical experience with daptomycin in pediatrics
    Name KC, et al. Pharmacotherapy 2017; 37: 105
要約:生後2ヶ月−2歳にダプトマイシンを投与し、多くの症例で症状が改善し、副作用は少なかった
 2008-2014年に、Gram陽性菌感染症に対して、ダプトマイシンを使用した小児の入院症例を後方視的に検討した。
 146名に3日間以上ダプトマイシンを投与した。Gram陽性菌感染症が確定診断されていたのは109例であった。109名のうち、男児は71例(65%)、年齢中央値は12歳(範囲:2.5ヶ月ー24歳)。治療期間の中央値は12日間(範囲3-121日、平均16日間)。カテーテル関連血流感染症(CRBSI)が最多(81例)であった。107例(98%)が退院時に症状は改善していた。CPK上昇した症例は認めなかった。
 
(4)Daptomycin for Children in Clinical Practice Experience
   Grazing S, et al. Pediatr Infect Dis J 2016;35:639
要約:小児の重症症例に使用しても安全性は高い。治療成績の判断はこれから。
 46例の小児にダプトマイシンが投与された。平均投与量は7.0mg/kg/dであった。投与期間の中央値は14日間であった。3名に副作用を認めた。忍容性は良好であった。
 患者の年齢中央値は8.7歳(IQR 2.6: 14.5歳)。内訳は、敗血症(20例)、骨髄炎(12例)、皮膚軟部組織感染症(11例)、心内膜炎(3例)で使用された。原因菌は、MRSA(37.2%)、MRCNS (30.2%)であった。全ての分離菌株でダプトマイシンのMICを計測し、感受性があることを確認している。ダプトマイシンが第一選択として投与された症例は、全体の37%、第二選択以降として投与されたのは63で%あった。
副作用の内訳は、薬剤熱1例、好酸球上昇1例、腎機能・肝機能障害1例であった。
 予後が判明した44例のうち、治癒が25例、有意な改善が13例、治療失敗が6例であった。
 
(5)Daptomycin Use in Children: Experience With Various Types of Infection and Age Groups
   Syrogiannopoulos GA, et al. Pediatr Infect Dis J 2017; 36: 962
要約:ダプトマイシンの治療成功率は高く、重篤な副作用は無かった。
 ギリシアの大学病院で2007年から2016年にダプトマイシンを使用した症例を後方視的に検討した。
 患者数は128例。年齢中央値は2.8歳(範囲:生後8日ー14.5歳)、6歳以下が76.6%を占めた。45例(35.2%)が侵襲性感染であった。内訳は主に、骨髄炎、筋肉内膿瘍、関節炎であった。
 61例(63.9%)が黄色ブドウ球菌感染症で、そのうち39例(63.9%)がMRSAであった。平均投与量は10mg/kg/dayで、投与日数の中央値は10日間であった。ドレナージが施行された例は86%(67.2%)であった。128例中、123例(96.1%)で臨床的に治療は成功した。治療失敗例は0例であった。重篤な副作用もなかった。
 
(6)Observed Antagonistic Effect of Linezolid on Daptomycin or Vancomycin Activity against Biofilm-Forming Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus in an In Vitro Pharmacodynamic Model
   Luther MK, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2015; 59: 7790.
 要約:バンコマイシンとダプトマイシンの併用は相乗効果があるかもしれないが、バンコマイシン+リネゾリドはin vitroでアンタゴニスティックに作用する可能性がある
 ダプトマイシン、バンコマイシン、リネゾリドを併用し、in vitroで薬物動態学的に抗菌活性を検討した。バイオフィルムを形成するMRSAに対して効果を評価した。リネゾリドはバンコマイシンに対してアンタゴニスティックに作用し、リネゾリドとバンコマイシンを併用した時よりも、バンコマイシン単独の方が、菌量が減少した。一方、バンコマイシンにダプトマイシンを追加すると、48時間時点で有意に菌量の減少が見られ、in vitroで相乗効果がある可能性がある。
 
(7)Daptomycin for Complicated Skin Infections: A Randomized Trial
   Bradley J, et al. Pediatrics. 2017; 139: e20162477
要約:ダプトマイシンは小児の皮膚軟部組織感染症に使用した時、標準治療と効果・副作用は変わらない。ランダム化比較試験。
 多施設評価者盲検ランダム化比較試験。Gram陽性菌による皮膚軟部組織感染症(SSTI)の1−17歳の小児を対象に、ダプトマイシン群と標準治療群に2:1の割合で患者を割付けた。ダプトマイシン投与量は、12-17歳が5mg/kg, 7-11歳が7mg/kg, 2-6歳が9mg/kg, 12-23ヶ月が10mg/kgとした。ダプトマイシンの安全性及び標準治療に対するダプトマイシンの治療効果を検討した。
 257名のダプトマイシン投与群と132名の標準治療群(クリンダマイシンかバンコマイシン)を検討した。35%がMRSAであった。最も多い副作用は、下痢(7%と5%)、CPK上昇(6%と5%)であった。治療に関する副作用の発生率は、ダプトマイシン14%、標準治療17%で変わらなかった。治療成功率は、ダプトマイシン群91%と標準治療群87%であり変わらなかった。ダプトマイシンは忍容性があり、治療効果も標準治療とほぼ同じ。
 
(8)Use of Daptomycin in Critically Ill Children With Bloodstream Infections and Complicated Skin and Soft-tissue Infections
   Tedeschi S, et al. Pediatr Infect Dis J 2016;35:180
要約:ダプトマイシンを小児の重症の菌血症・皮膚軟部組織感染症に使用した。治療効果は良好で、第一選択薬で治療失敗の時に考慮しうる。
 12歳未満の重症例(菌血症と皮膚軟部組織感染症)12例にダプトマイシンを投与した後方視的検討。年齢中央値は、生後192日。年齢範囲は生後14日から7歳。11例がPICU入院し、9例が直近で心臓外科手術を受けていた。基礎疾患は、6名が先天性心疾患、3名が血液悪性腫瘍、2名がECMO装着。投与量は8mg/kg/day、投与期間の平均は14日間。菌血症が9例(すべてCNS)、皮膚軟部組織感染症が3例であった。第一選択として使った症例はなく、初期治療薬に対する治療失敗例に使用した。全例で細菌培養が陰性化し、薬剤による副作用は認めなかった。
 
<現時点での最重要論文!>
(9) Randomized Multicenter Study Comparing Safety and Efficacy of Daptomycin Versus Standard-of-care in Pediatric Patients With Staphylococcal Bacteremia
   Arrieta AC, et al.  Pediatr Infect Dis J 2018;37:893–900
要約:ダプトマイシンは小児のブドウ球菌菌血症に使用した時、標準治療と効果・副作用は変わらない。ランダム化比較試験。
 Phase 4の多施設評価者盲検ランダム化比較試験。ブドウ球菌菌血症の1−17歳の小児を対象に、ダプトマイシンと標準治療を2:1の割合で割付けた。治療期間は5−42日間。ダプトマイシンの投与量は、12-17歳が7mg/kg, 7-11歳が9mg/kg, 1-6歳が12mg/kgとした。
 55名がダプトマイシン、27名が標準治療(バンコマイシンまたはセファゾリン)を受けた。ダプトマイシン群では、MSSA 44例 , MRSA 12.7例。標準治療群では、MSSA 19例,MRSA 3例であった。両群とも15%の症例で薬剤による副作用が見られた。主な内訳は、下痢(4%、8%)、CPK上昇(4%、0%)であった。治療終了後7−14日目に行った評価で、治療成功率は、ダプトマイシン群88%、標準治療群77%であった (95% CI: -9% to 31%)。
 ダプトマイシンはブドウ球菌菌血症の小児に対して忍容性は良好で、標準治療と比較して効果も同等であった。
 

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(10) Community-Acquired MRSA Pericarditis and Mediastinitis in a Previously Healthy Infant
   Sanchez J, et al. J Pediatr Intensive Care. 2018;7:97.
要約:ダプトマイシンはバンコマイシンの効果が不十分な乳児の縦隔炎・心外膜炎の治療選択肢になったという症例報告。
 市中発症MRSA(CA-MRSA)による心外膜炎・縦隔炎の症例報告。
 8ヶ月女児。生来健康。心外膜炎と診断され、心嚢を洗浄ドレナージし、バンコマイシンを投与したが、バンコマイシンのトラフ値が上昇せず、ダプトマイシンを併用した。縦隔膿瘍のために再度、ドレナージを施行した。その後、バンコマイシンのトラフ値が上昇したところで、ダプトマイシンを終了した。