小児感染症科医のお勉強ノート

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緑膿菌の薬剤耐性機構について (Mandellのまとめ)

 緑膿菌 (Pseudomonas aeruginosa)は薬剤耐性が問題になることが多く、抗菌薬適正使用がなされている病院では抗菌薬の感受性が良好で、そうでない病院では感受性が悪い傾向があります。一方で、地道な抗菌薬適正使用の活動により、広域抗菌薬の使用が減ると、感受性も回復してきます。今回は、緑膿菌の薬剤耐性機構について、Mandellをまとめました。一般病院では、耐性機構の検査は難しいですが、感受性のパターンからどのような薬剤耐性機構が存在しているかを予想してみるのは、興味深いと思います。
 

以下は要約

Mandell, Douglas, & Bennett's Principles & Practice of Infectious Diseases, 9th ed. Chapter 219

 Pseudomonas aeruginosaは、多くの薬剤耐性機構を有している。そのため、他のよくある病原微生物と比較して、薬剤耐性率が高く、多剤耐性菌株が多いことは驚くべきことではない。さらに懸念されることは、抗緑膿菌作用を有する抗菌薬の開発がほとんど進んでいない点である。FDAは、2014年にceftolozane-tazobactamを認可した。これは、P. aeruginosaのペニシリン結合タンパク質(PBP)への親和性が高く、ポーリンチャンネル欠損や排泄ポンプのupregulationの影響を受けない抗菌薬である。セフタジジムまたはメロペネム耐性の分離株の80%以上が、ceftolozane-tazobactamに対して感性であった。現時点では、尿路感染症と腹腔内感染症に対して承認されている。MDR-P. aeruginosaの重症感染症に対しても有用であるとの報告が出ている。
P. aeruginosaの薬剤感受性は、各医療施設において異なる。2014年の米国のデータでは。アミノグリコシド耐性が7−21%、広域セファロスポリン耐性が10−27%、フルオロキノロン耐性が12−33%、カルバペネム耐性が8−28%、ピペラシリン±タゾバクタム耐性が7−19%である。3種類以上の系統の抗菌薬に耐性の多剤耐性P. aeruginosaの割合は4−20%である。これまでの発表と同様に、人工呼吸器関連肺炎からの分離株で耐性率が高く、手術部位感染からの分離株は耐性率が低い。
 ヨーロッパから2016年に出された報告では、2013年から16年にかけて、セフタジジム耐性が増加したが、フルオロキノロン、アミノグリコシド、カルバペネム耐性は減少した。ピペラシリンへの耐性は変化がなかった。1系統以上の抗菌薬に耐性の株の割合は33.9%、3系統以上が13.6%、5系統すべてが4.4%であった。3系統以上に耐性の株の割合は、国による差が大きい。MDRPの割合が少ない(<3%)のは、アイスランドデンマークルクセンブルク、UK、オランダであった。一方、ブルガリアルーマニアでは36−49%がMDRPであった。1系統以上に耐性のP. aeruginosaの割合は、ラテンアメリカやアジア太平洋地域では、23−41%であった。
 2010年の米国からの報告で、Long-term acute care hospital (長期急性期病院)では、ICUよりもP. aeruginosaの薬剤耐性率が高いことが報告されている。
 
 
薬剤耐性機構
 P. aeruginosaは多数の薬剤耐性機構を有している。抗菌薬の透過性を低下させたり、抗菌薬の作用部位を変化させたり、抗菌薬を不活化する機構などがある。これらの耐性機構には、intrinsic, acquired, adaptiveに獲得される。
 
1.Intrinsic(本来備わっている耐性機構)
 (1)細胞外膜の透過性低下
  P. aeruginosaの半透膜の外膜は、重要な栄養素を細胞内に取り込むためにポーリン(porin)というチャネルと細胞膜上に有している。多くの抗菌薬(ベータラクタム、アミノグリコシド、テトラサイクリン、フルオロキノロン、カルバペネム)がポーリンを介して、菌体の中に入る。ポーリンはOprF, OprD, OprM, TonBに分類されている。OprFは主要なポーリンであるが、OprFに変異があっても、薬剤耐性の性質が変化しないため、薬剤耐性に及ぼす影響は不明である。OprDは最も研究が進んでいるポーリンである。カルバペネムが通過するが、他のベータラクタムは通過しない。OprD欠損により、MICが上昇する影響はすべてのカルバペネムで同じではない。OprMは排泄ポンプの機構にも関わる。すべての薬剤がポーリンを利用して菌体内に侵入するわけではなく、アミノグリコシドやポリミキシンは、細胞外膜のリポポリサッカライドに結合し、膜を不安定化させる。
 (2)排泄ポンプ (efflux pump)
  その名の通り、抗菌薬をバクテリアの細胞内から排泄するポンプである。この排泄ポンプは、多くの抗菌薬に対する薬剤耐性を引き起こし(ポリミキシンを除く)、MDRPとなる主要な機構である。5つのスーパーファミリーが存在するが、resistance-nodulation-division (RND) familyが最も一般的である。MexAB-OprM, MexXY-OprM排泄システムは、RNDファミリーに含まれ、フルオロキノロン、アミノグリコシド、ベータラクタム、テトラサイクリン、チゲサイクリン、クロラムフェニコールなど多くの抗菌薬に対して生来の耐性を示す。MexAB-OprMはメロペネムを排泄し耐性となるが、イミペネム耐性にはならない。同様に、MexXY-OprMはセフェピムを排泄するが、セフタジジムは排泄しない。
 (3)Antimicrobial-modifying enzymes
  抗菌薬を分解する酵素は、おおくがプラスミドを介して獲得される。しかし、AmpCは染色体にコードされたセファロスポリナーゼである。AmpCは、4世代セフェムとカルバペネムを除く全てのベータラクタム系抗菌薬分解する。AmpCが過剰に産生されると、これらの抗菌薬に対しても耐性を示す。治療中の耐性獲得は、50%以上の症例で認められ、特に重症例、好中球減少性発熱、嚢胞線維症でよく見られる。
 
2.Acquired(獲得された耐性機構)
 獲得された薬剤耐性遺伝子は、主にベータラクタム、アミノグリコシドへの耐性を示す。ESBLsは、プラスミドにより伝播し、ペニシリン、セファロスポリン、アズトレオナム、そして時にカルバペネムに対して耐性になる。ESBL産生P. aeruginosaは全世界で広がっている。P. aeruginosaで見つかっているESBLファミリーは、PER, VEB, GES, TEM, SHV, CTX-M型である。GES型は、カルバペネムに対しても耐性を示す。これらの酵素は、中国、南アフリカ、ブラジル、フランスから報告されている。Oxacillinase βlactamases (OXAs)は、狭域のことも広域のこともあり、クラブラン酸により弱く阻害される。Carbapenemase-hydrolyzing oxacillinasesはP. aeruginosaでも見つかっているが、Acinetobacterより頻度は少ない。カルバペネム耐性は、metallo-carbapenemaseによっても起こる。VIM, IMP, NDMファミリーが含まれる。これらの酵素は、カルバペネムだけではなく、ペニシリン、セファロスポリンも分解する。VIM型は、1997年にイタリアで報告され、その後腸内細菌科に広がり、特にKlebsiella pneumoniaeに広がっている。KPC型もP. aeruginosaで見つかっている。P. aeruginosaのKPC型は、最初コロンビアで見つかり、プエルトリコ、中国、米国、ブラジルで報告されている。耐性機構に関わらず、カルバペネム耐性P. aeruginosaは重篤感染症を起こすことがある。1981年から2006年の期間に、P. aeruginosaのイミペネム耐性率をみると13%から20%に上昇しており、病院内死亡のリスクになっていたという報告がある。カルバペネム抗菌薬の使用歴があると、イミペネム耐性P. aeruginosa感染症を発症するリスクが8倍になるという報告もある。
 
3.Aminoglycoside-modifying enzyme
 この酵素は、プラスミド、トランスポゾン、インテグロンにより、伝播する。この酵素によりアミノグリコシドはすべて耐性になるが、アミカシンは分解されにくい。最も一般的な酵素は、aminoglycoside nucleotidyltransferase (2’)-Iであり、ゲンタマイシンとトブラマイシン耐性になる。aminoglycoside acetyltransferase(6’)-IIはnetilmicin耐性になる。