小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児の肺炎は(やっぱり)細菌性肺炎の方が多いのではないか

 台湾の8つの病院(大学病院がメイン)で実施された小児の市中肺炎の原因微生物に関する研究です。以前NEJMで、ウイルス性が多いことが報告されていましたが、臨床をしていると、この台湾からの報告のほうが、納得できる気がします。
 
Characteristics and etiology of hospitalized pediatric community-acquired pneumonia in Taiwan
Chi H, et al. J Formos Med Assoc. 2020;S0929-6646(20)30325-9
 
背景・目的:本研究の目的は、台湾における小児市中肺炎(CAP)の病原体を特定し、発生率を推定することである。
方法:この研究は、前向き研究であり、2010年11月から2013年9月までに8つの医療センターで実施された。肺炎の放射線学的基準を満たした6週齢から18歳までの小児が登録された。定型および非定型の細菌およびウイルスを検出するために、血液・胸水培養、呼吸器検体を複数の従来法および分子生物学的手法を用いた研究を行った。
結果:対象となった小児1032例中705例(68.3%)で少なくとも1つの病原微生物が確認された。その内訳は、細菌が420例(40.7%)、ウイルスが180例(17.4%)、ウイルスと細菌の混合感染が105例(10.2%)であった。病原体は肺炎球菌(31.6%)が最も多く、次いで肺炎マイコプラズマ(22.6%)となった。ウイルスでは、アデノウイルス(5.9%)が最も多かった。RSVは2歳未満の小児、肺炎球菌は2歳以上5歳未満の小児、肺炎マイコプラズマは5歳以上の小児と有意に関連していた。CAPの年間入院率は、2~5歳が最も高かった(10万人あたり229.7人)。2011年から2012年にかけて、5歳未満の小児、肺炎球菌、アデノウイルス、または共感染による肺炎、および合併性肺炎で入院率が有意に減少した。
結論:肺炎球菌ワクチン接種率の上昇により、CAP関連の病原体が変化した。本研究では、適切な治療を迅速に行うために重要なCAPに関連する病原微生物の最新の状況と動向を報告した。
 
以下は、私見です。
  肺炎球菌性肺炎と診断された326例のうち、270例が尿中抗原で診断されている点がかなり気になります。肺炎球菌の尿中抗原は、成人では診断に有効ですが、小児では肺炎球菌の保菌率が高く、偽陽性が多いことが知られています。この研究では、肺炎球菌肺炎では無かったのに、肺炎球菌肺炎と分類される患者が一定するいることには留意が必要と思います。しかし、臨床をしている人間としては、入院してくるような肺炎の場合、ウイルス性肺炎は結構少ないという印象をもっています。米国で入院を要する小児の肺炎の原因を検討した報告(N Engl J MEd. 2015;372:835)では、ウイルスのみが66%、細菌のみが8%、ウイルスと細菌の共感染が7%であったとしていますが、ウイルス性肺炎が多すぎると感じました。地域差やstudyを行った時期、ワクチンの普及などの影響はあるでしょうが、それよりもこの報告のほうが実臨床に近い気がします。
 それにしても、台湾の臨床研究のパワーはすごいですね。日本でこの規模の研究は大変だと思います。
 

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