小児感染症科医のお勉強ノート

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高IgE症候群のまとめ(Uptodateより)

 
<要点>
・高IgE症候群(HIES)は、繰り返す皮膚・肺感染症、湿疹性皮膚炎、血清IgE高値を特徴とする。
・常染色体優性遺伝性HIES(AD-HIES)は、STAT3(signal transducer and activator of transcription 3)遺伝子に変異があることで発症する。
・易感染性以外に、常染色体優性疾患に見られるその他の臨床症状には、粗い顔貌、乳歯の脱落遅延、再発性骨折、過伸展性関節などを認める。
・重症感染症でも、発熱が軽度で、元気なこともある。
・検査所見は、血清IgE値の高値、好酸球増多。
・HIESの管理は、スキンケア、感染症の予防、感染症の迅速かつ十分な治療、肺合併症のコントロールに重点が置かれている。
・頻回・重症の細菌感染症に対しては、ST合剤の予防投与を行う。
 
 
【はじめに】
 ブドウ球菌による膿瘍、副鼻腔炎、および重症の湿疹を繰り返す症候群は、1966年に初めて報告された。当初、聖書のJobの記述に基づいて「Job症候群」と呼ばれていた。"サタンは主の御前から出てきて、Jobを足の裏から王冠に至るまで痛む腫れ物で打ちのめした」(Job2:7)。
 
 この疾患は、血清IgEレベルが上昇し、後にhyperimmunoglobulin E, recurrent infection syndrome; HIESと呼ばれるようになった。その後、臨床的特徴が明らかになり、古典的常染色体優性高IgE症候群(AD-HIES)/Job症候群は、免疫調節機能の欠如が病態であると明らかになった。また、同様の症状を呈する常染色体劣性疾患も同定された。
 
 この症候群の患者は、特徴的顔貌と骨格所見を有し、再発性の感染症(主に細菌感染症およびカンジダ感染症)および湿疹性皮膚炎を有する。血清IgE値の上昇に加えて、炎症過程の異常および関連する免疫調節障害がある。
 
【疫学】
 HIESはまれな疾患である。正確な発生率は不明で、推定発生率は50万人から10万人に1人とされている。男女差はなく、親子例も見られる。白人だけでなく、アジア系およびアフリカ系人種でも報告されている。
 
【遺伝学】
 AD-HIES患者のほとんどは、染色体17q21(MIM #147060)上にコードされているSTAT3のシグナル変換および活性化因子に欠損がある。報告されている最も一般的な変異は、STAT3のSrcホモロジー2(SH2)領域およびDNA結合ドメイン(DBD)領域におけるdomiant-negative missense変異である。これらの変異は、AD-HIESの散発例および家族性の両方で報告されている。DBDおよびSH2ドメインの外での変異も報告されている。軽症の3人の患者で体細胞モザイクが認められている。影響を受けた対立遺伝子のナンセンス媒介崩壊を伴うSTAT3ハプロ不全は、1例報告されているが、症状が限定されている(IgE上昇、アトピー性皮膚炎、アスペルギルス症)可能性がある。
現在、HIES様疾患の原因となる7つの遺伝子の変異が確認されている。
チロシンキナーゼ2遺伝子(TYK2)、染色体19p13.2上にコード(MIM #611521)[20,21]。
・アクチン細胞骨格の制御に関与するタンパク質をコードするサイトキネシス8遺伝子(DOCK8)(MIM #243700)。
・N-グルカンの生合成に関わる酵素をコードするホスホグルコムターゼ3遺伝子(PGM3)(MIM #615816)。
・STAT3 発現の転写調節因子をコードするジンクフィンガー341遺伝子(ZNF341)(MIM #618282)。
・カスパーゼ受容体ドメイン含有タンパク質11遺伝子(CARD11)は、核内因子κB複合体の構成要素をコード(MIM #607210)。
・ERBB2-interacting gene (ERBB2IP) は STAT3-interacting protein の一つである ERBIN をコード。
・インターロイキン6シグナルトランスデューサー遺伝子(IL6ST)は、IL-6および他のサイトカインシグナル伝達に重要なタンパク質をコード(MIM #600694)。
 
 明らかな遺伝子異常を持たないHIESまたはHIES様疾患の患者は、STAT3、DOCK8、またはTYK2の調節因子の欠陥、またはシグナル伝達経路のさらに下にある新規遺伝子の欠陥を有している可能性がある。
 
 
【病態生理】
 AD-HIESは、インターロイキン(IL)6およびIL-2などのサイトカインによって活性化されるJAK-STATシグナル伝達経路(図1)の欠陥に起因する。JAK-STAT経路の欠損は、ヘルパーT細胞17型(Th17)の分化異常および機能障害につながる。この経路の障害により易感染性、皮膚の異常、骨格の異常、免疫学的異常をすべて説明する機序は、まだ明らかではない。
 STAT3は細胞質タンパク質であり、シグナル伝達のJAK-STAT経路の構成要素である。細胞表面上の受容体へ様々なサイトカインが結合し、JAK活性化し、STATをリン酸化する。その後、STATは二量体を形成し、核に移動し、DNA上の特定部位に結合し、標的遺伝子を活性化する。このシグナル伝達のメカニズムは、多様な細胞の機能に不可欠である。STAT3は、複数のサイトカイン、ホルモン、および成長因子ファミリーによって誘導されるシグナル伝達において重要であり、これは、HIES患者に見られる多系統にわたる症状に一致している。
 STAT3欠損は、Th17機能の障害につながる。Th17分化と機能の欠損は、STAT3変異を持たない患者にも見られる。軽症の臨床表現型を持つHIES様疾患の罹患家族において、Candida albicansおよび黄色ブドウ球菌誘導性IL-17産生の障害を認めた。
 易感染性の一部は、Th17機能障害に起因する。好中球の増殖および遊走能の低下、炎症反応の低下により、カンジダおよび細菌感染に対する易感染性をもたらす。ケラチノサイトおよび気管支上皮細胞は、抗ブドウ球菌因子を産生するためにTh17および古典的なサイトカインの両方による刺激を必要とするが、他の細胞は古典的なサイトカインのみを必要とする。これは、Th17機能の欠損が全身性であるにもかかわらず、ブドウ球菌感染が皮膚と気道に限定されている理由を説明しているかもしれない。
 STAT3欠損はまた、Tヘルパー細胞9(Th9)の分化障害にもつながる。Th9細胞は、特にIL-9を産生し、アレルギー、喘息、自己免疫性炎症、抗腫瘍、および寄生虫、原虫への応答において役割を果たしている。HIESにおけるIL-9分泌の減少は、HIESにおけるIgE産生の亢進にもかかわらず、アレルギー反応が相対的に低いことに関連する可能性がある。
 
好中球の機能障害
 HIESでは、好中球減少症は認めない。また、HIESの好中球は細菌を正常に貪食・殺菌できる。しかし、約80%の患者で好中球の遊走能が低下している。さらに、in vitroおよびin vivoで炎症性サイトカインの産生が障害され、炎症反応が抑えられているため、一部の患者で冷膿瘍(非炎症性)を呈することがある。
 
 IL-17を産生するTh17細胞は、好中球の遊走能および増殖に関与している。皮膚および肺の感染に対する好中球応答機能の低下が、感染を再発する原因となっている可能性がある。気道上皮細胞およびケラチノサイトは、IL-17依存性に真菌に対する免疫応答や抗菌活性のあるペプチドを産生する。IL-17産生異常により、単核球が分泌するIFN-γを減少させるので、おそらくAD-HIES患者におけるインターフェロン(IFN)γ産生につながる経路にも影響を与える。さらに、HIES患者の好中球をin vitroで培養し、IFNγを投与すると遊走能が上昇した。IFN-γの皮下投与した研究では、気道症状の減少と湿疹が改善した。
 
T細胞の欠損
 STAT3は、ナイーブT細胞がIL-17産生CD4+T細胞(Th17細胞)に分化する際に重要な役割を果たしている。Th17細胞は、真菌およ細菌感染に対する応答に関与している。Th17細胞は、HIESでは減少または欠失している。In vitroの環境で、ブドウ球菌腸管毒素B、C. albicans、ストレプトキナーゼで刺激したHIES患者のT細胞はIL-17の産生が低かった。
 IFN-γおよびTNFα、IL-9、CD8+T細胞の減少、および抗原性刺激に対する遅延型過敏症およびリンパ増殖反応の減少など、他のT細胞の欠損も報告されている。
 
B細胞の欠損と異常なIgE調節
  HIEにおける血清IgEの上昇は、おそらく中心的な病態ではない。IgE産生は複雑なプロセスであり、その産生調節の異常は、合成経路のどこでも発現する。IgEの調節には、T細胞の刺激、サイトカイン産生、B細胞のIgE産生へのクラスチェンジが関与する。
 IL-4やIL-13などのTh2サイトカインはIgE産生を増強し、一方、IFN-γ、IL-12、IL-18などのTh1サイトカインは、IgE産生を抑制する。IFN-γ産生・制御の欠陥は、IgEの上昇レベルに寄与しうるが、ある研究では、B細胞特異的STAT3欠損マウスにおけるIgEレベルの上昇が示されており、異常な免疫グロブリンクラスのIgEへの切り替えもあることが示唆されている。
 HIESでは、メモリーB細胞の減少とT細胞依存にワクチン抗原に対する反応の低下が示されている。血漿中のB細胞活性化因子(BAFF)レベルの上昇およびBAFF受容体(BAFF-R)発現の低下もまた、HIESで見られたが、一般的なCVID患者と同様であった。液性免疫の反応欠如が、HIESにおけるS. aureusの排除を困難にする原因かもしれない。
 
 
【臨床症状】
 HIESは、臨床的には皮膚炎および繰り返す感染(主に細菌性気道感染症および皮膚感染)が特徴であるが、症状および徴候の組み合わせには個人差が大きい。食物アレルギーおよびアナフィラキシーの割合は、アトピー性皮膚炎患者およびIgE値が上昇している患者と比較して、HIES患者では有意に低い(食物アレルギー38 vs. 58%、食物誘発性アナフィラキシー8 vs. 33%)。
 
米国免疫不全ネットワーク(USIDNET)レジストリに登録された患者85人で報告されている臨床症状は、以下である。
・皮膚膿瘍(74%)
・湿疹(58%)
・その他のアレルギー疾患
 (薬物アレルギー43%、食物アレルギー38%、環境アレルギー18%)
・乳歯脱落遅延(41%)
・骨折(39%)
・側弯(34%)
・悪性腫瘍(7%)
 
皮膚症状
 皮膚症状はHIESにおける最も明らかな臨床所見である。生後数週間以内に、顔面および頭皮から発疹が出現し、体幹上部/肩および臀部に広がる。丘疹、しばしば痂皮を伴う発疹から始まる。アトピー性皮膚炎に類似した、湿疹・痂皮を呈し、重度の掻痒感を伴う発疹に進行する。発疹は全身に分布し、苔癬化することもある。通常、喘息・食物アレルギー・花粉症・その他のアレルギー症状・アトピー性皮膚炎の家族歴など、他の一般的なアトピー症状を有していない。IgE値はHIES患者のアトピー症状のリスクと相関していない。
 皮膚炎の激しい掻痒感は、皮膚内のカンジダおよびブドウ球菌に対して肥満細胞からヒスタミンが放出されることが原因である。皮膚生検では、好酸球の浸潤を示すことが多い。
 膿瘍、癤、蜂窩織炎などの皮膚感染症は乳児期初期に発症することが多く、リンパ節炎を伴うことが多い。ブドウ球菌による膿瘍は、顔面、頸部、頭皮に発生することが多い。膿瘍は、「冷膿瘍」のような、炎症の古典的な徴候や症状を欠いている場合も、典型的な炎症所見が存在する場合もある。HIESの皮膚感染において、最も一般的な原因菌は、S. aureusおよびC. albicansである。
 
副鼻腔・肺およびその他の感染症
 HIESは、重大な感染症に罹患しているにもかかわらず、熱がなく元気であるという報告がある。これは炎症の障害および炎症性サイトカイン産生の減少が原因かもしれない。肺感染症は皮膚症状に次いで多く見られる。フランスの全国調査では、初感染時の平均年齢は10.5ヶ月(範囲:0~180ヶ月)である。
 多くの場合、副鼻腔炎、化膿性中耳炎、乳突洞炎の持続や慢性上気道感染症を再発しており、外科的介入を必要とすることがある。これらの感染症に関与する病原体は、黄色ブドウ球菌、C. albicans、Haemophilus influenzae、A 群および B 群溶連菌、Pseudomonas などのグラム陰性菌、および真菌が含まれる。
 肺の感染症は、S. aureusによるものが最も一般的である。再発性であり、致死的となりうる。Pneumocystis jirovecii、Aspergillus、Pseudomonas、Nocardia sppによる日和見感染症が報告されている。あるケースシリーズでは、肺膿瘍は19%で報告され、緑膿菌またはアスペルギルスが原因であった としている。
 肺炎は、気管支拡張症、気管支胸膜瘻、pneumatoceleおよび気管支炎を合併することが多い。肺炎は、AspergillusまたはPseudomonas sppに重感染することもある。非結核性抗酸菌感染症もまた、気管支拡張症、結節、空洞などの気道に構造的異常を持ったSTAT3欠損HIES患者によく見られる 。
 十分な免疫障害を有する患者にみられるその他の非肺性日和見感染症には、以下のようなものがある。
・口腔粘膜または膣粘膜を侵す粘膜カンジダ症。C. albicansの慢性感染により、爪はしばしば萎縮する。

 

・地域流行性の真菌症
 -クリプトコッカス感染症、典型的には髄膜炎
 -ヒストプラズマ症の感染症、通常は消化器系に影響を及ぼす
 -コクシディオイデス髄膜炎
 
顔面の特徴
 HIESの願望の最も特徴的な点は、広い耳介、広い鼻根と広い鼻梁である。その他の特徴としては、前額部の突出、彫りの深い目などが挙げられる。突出した額、下唇、広い鼻は乳児期にすでに観察される。
 顔、耳、鼻の軟部組織の肥厚があり、これが「粗い顔面」と表現されることが多い。これらの特徴は、AD-HIES患者の80~100%にみられ、特に思春期以降に顕著になる。
 
骨格異常
 骨格および歯の異常、ならびに成長遅滞は、HIESで見られる。
乳歯の脱落が遅れ、歯が2列になることがある。乳歯は抜歯が必要な場合もある。硬口蓋や舌の背面の異常も見られる。
 STAT3関連HIESでは、一般的に年齢の上昇とともに、側弯症および骨粗鬆症による骨折が増加する。破骨細胞の産生と骨減少症とに関連している。過伸展性関節も報告されている。
 軽度の外傷により骨折し、再発することもある。受傷部位は長幹骨が最も多い。ほとんどの患者で骨減少症または骨粗鬆症が認められており、サイトカインが介在する骨吸収によると推定される。HIES患者のサイトカインプロファイルは閉経後の女性のそれと類似している。骨密度の低さと、骨折と関連がある。

 

リンパ腫のリスク増加
 非ホジキンリンパ腫の発生率は、HIES患者では増加している。HIESとリンパ腫を有する23人の患者が報告され、少なくとも8人が死亡している。ヒトパピローマウイルス(HPV)感染後の外陰部扁平上皮がんおよび肝臓、骨および脊髄への転移を伴う肺腺がんの単発症例報告が報告されている。
 
神経学的異常
 ケースシリーズで50人中35人のHIES患者の脳MRIで、2-50ヶ所/人の焦点性T2強調高信号域が認められたと報告されている。別のケースシリーズでは、21個以上の白質高輝度がある場合は、グローバル認知能力、視覚知覚能力、作業記憶のテストのスコアが低いことが示されている。
 
血管異常
 血管構造異常がHIESの主要な臨床的特徴であることが示唆されているが、HIESにおけるこれらの異常の正確な有病率は不明である。常染色体劣性遺伝性HIES患者に最も多くみられる。血管異常は静脈性または動脈性、先天性または後天性のいずれもあり、動脈瘤および偽動脈瘤のような、重大な合併症を引き起こす可能性がある。HIES患者における冠動脈異常には、蛇行性、異所性拡張、および焦点性動脈瘤が報告されている。
 
 
【検査】
 血清IgE値の上昇と末梢性好酸球増多はHIES患者の最も一般的な検査所見である 。しかし、これは他の多くの疾患(表1および表2)と関連しており、典型的な臨床的特徴がない場合にはHIESの診断にはならない。
 
 血清IgE値の上昇
  ほとんどの患者の血清IgE値が上昇している。血清IgE値は一般的に1000から50,000 IU/mL以上であり、平均8384 IU/mLの血清IgEが報告されている。血清IgE値2000 は、HIESのカットオフ値としてしばしば用いられる。しかし、STAT3変異を有する400IU/mLという低IgE値のHIES患者が報告されている。
 血清IgE値は重症度とは関係がない。乳児期であってもIgE値は上昇する。IgE値は安定している場合もあれば、時間の経過とともに低下し、一部の成人のHIES患者では正常値に近い値になる場合もある。しかし、抗ブドウ球菌IgEおよび抗カンジダIgE値は通常上昇したままであり、これらの測定が可能であれば診断に有用である。
 常染色体優性高IgE症候群(AD-HIES)におけるIgEは、アレルゲンに対してはほとんど誘導されず、DOCK8欠損症(常染色体劣性HIES様疾患)の患者とは異なり、即時型アレルギー疾患の既往歴はない。皮膚プリックテストおよびアレルギーの臨床所見は、AD-HIESの特異的IgEの結果と一致しており、血液および皮膚テストの結果は健常者と同等である。
 
 好酸球増加
 好酸球は急性感染で頻繁に上昇する。白血球総数の40~50%までの好酸球数の上昇が報告されている。
 
 その他の所見
 免疫不全障害のスクリーニング検査として用いられる定期的な検査室評価では、HIES患者において以下の所見が明らかになることがある。
免疫グロブリンD(IgD)値が上昇している[43]。
・一部の患者における免疫グロブリンG(IgG)サブクラス濃度の低下。
・一部の患者では、タンパク質と多糖類の両方の予防接種に対する反応が悪い。
 白血球数は、急性炎症がない場合は正常である。同様に、好中球減少症やリンパ球減少症も感染症がない場合には認められない。
 
 
【診断】
 HIESの診断は、臨床所見および検査所見に基づいて行われ、診断の確認は、遺伝子欠損(例えば、STAT3変異)を同定することにより行われる。ブドウ球菌性肺炎または再発性膿瘍および慢性湿疹を有することをきっかけに診断されることが多い。しかし、家族歴があれば、乳児期に診断されることもある。米国免疫不全ネットワーク(USIDNET)レジストリでは、約半数の患者がHIESの家族歴を報告している。常染色体優性型のHIES(AD-HIES)の診断を確認するには、遺伝子検査が重要である。
 米国国立衛生研究所(NIH)によって考案されたスコアリングシステムが利用可能であり、これはHIESの家族歴を持つ患者に使用できた。スコア30は感度87.5%、特異度80.6%である。乳児期や幼児期にはまれな特徴があるため、スコアリングシステムは年齢に合わせて調整されている。
 
 STAT3欠損型のHIESの別の診断ガイドラインでは、総IgE値、Tヘルパー細胞17型(Th17)細胞数、5つの主要な臨床的特徴(再発性肺炎、新生児発疹、病理学的骨折、特徴的な顔面、および高口蓋)を考慮に入れ、上記に引用したNIHスコアリングシステムを用いて、それぞれの点数を決定している。
 
Possible - IgE >1000 IU/mLに加えて、5つの主要な臨床的特徴のうち30点以上の加重スコアを有する。
 
Probable - 「可能性」の基準を満たしていることに加えて、Th17細胞が低いか、または存在しないか、または確認されたHIESの家族歴があること。
 
Definitive-「可能性がある」基準に加えて、STAT3変異の存在。
 
以下もまた、STAT3欠損HIESの診断を強く示唆する。
典型的な顔貌、臓器の膿瘍、重症感染症、肺嚢胞
爪・粘膜カンジダ症、脊柱管狭窄症、骨折
 
 
【鑑別診断】
 鑑別診断としては、アトピー性皮膚炎、Wiskott-Aldrich症候群(WAS)、重症複合免疫不全症(SCID)、DOCK8、PGM3のdedicatorの欠損などがある。
 
 
【治療方針】
 免疫不全の病態生理が完全に解明されていないため、HIES患者の管理は難しい。また、無作為化試験がないため、治療は観察データと臨床経験に基づいて行われている。HIESの管理には、多系統の側面があり、集学的チームによる治療が必要である。
 
管理の目標は、
・掻痒感と湿疹をコントロールする
・早期診断と局所感染症の徹底した治療、または予防的抗菌薬の使用
 →重篤な全身感染症の発生を予防
 
 湿疹の管理はアトピー性皮膚炎と同様に、皮膚の保湿と掻痒感のコントロールを行う。皮膚は、感染所見がないか注意深く検査する。S. aureusの定着を減少させるために、希釈した塩素系漂白剤またはクロルヘキシジンなどを入浴に使用することができる。HIES患者は、シクロスポリンおよびプレドニゾン、局所カルシニューリン阻害薬、および光線療法は禁忌である。
 
抗菌薬の予防投与
 ST合剤の予防投与は、慢性肉芽腫症と同様に、皮膚ブドウ球菌感染症副鼻腔炎、中耳炎、肺炎の予防に有用である。重症・頻回の感染症の既往歴のあるほとんどの患者にST合剤の予防薬を使用している。トリメトプリムとして5~8mg/kg/日を1日2回に分けて経口投与するか、0~6ヶ月は120mg/日、6ヶ月~5歳は240mg/日、6~12歳は480mg/日、12歳以上は960mg/日とする。抗菌薬予防投与は、皮膚、呼吸器、腸管感染症に罹患し続ける限り継続する。肝機能と腎機能、全血球数を定期的にモニターする。
 
感染症の治療
 深在性細菌感染症は、抗菌薬を用いて積極的に管理すべきである。外科的ドレナージが必要な場合もあり、骨髄炎の発症に注意する必要がある。原因菌を分離し、感受性を同定するために最大限の努力をする。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSA)が原因菌として問題となっている。
 経口および局所抗真菌剤は、慢性粘膜皮膚カンジダ感染に有益である。HIV感染症患者で使用されるものと同様の予防レジメンが採用されている。
 
肺合併症の管理
 肺合併症としては、細菌性肺炎を繰り返すことによる呼吸不全や気胸などがある。抗菌予防については上述の通り。著者らは、毎年、肺機能検査と胸部X線写真を用いて、患者を追跡調査している。
 
免疫調節薬
 組換えヒトインターフェロン(IFN)γは、ごく一部のHIES患者に投与されており、IgE値がわずかに低下し、呼吸器分泌物と症状の減少が報告されている。無作為化比較試験は実施されておらず、これらの薬剤はほとんど使用されていない。
 
高用量静脈内免疫グロブリン(IVIG)は、血清IgGレベルが低下していたり、ワクチン反応が著しく低下している患者を除いては、有意な利益をもたらすことは示されていない。湿疹が難治性の場合、IgGまたはIgGサブクラスが低下、肺疾患の悪化とワクチンの反応が悪い場合を除き、IVIGを使用しない方針としている。ヨーロッパで行われた大規模な共同研究では、IVIGにより肺感染症および肺障害が少し減少したことが示されている。
 
オマリズマブ(抗IgE)は、肥満細胞からのIgE介在性ヒスタミン放出を阻害するモノクローナル抗体である。オマリズマブは重症喘息患者に使用される。HIES患者ではIgEが極端に上昇するため、オマリズマブの使用には注意が必要である。症例報告でオマリズマブが著効したものがあるが、さらなる研究が必要である。
 
骨格異常の治療
 ビスフォスフォネートによる治療はHIESの骨密度を増加させるが、骨折予防効果は示されていない。脊柱側湾症は外科的修復を必要とすることがある。
 
移植
 HIESに対する造血細胞移植(HCT)は、当初は、長期的な効果は示されなかった。その後、重度の再発性肺感染症非ホジキンリンパ腫を有するHIES患者2人が、同胞ドナーを用いてHCTを受けたところ、10年と14年の追跡調査で持続的な有用性が示されている。HCTが免疫学的指標を改善し、感染症の頻度と重症度を減少させることを示唆している報告もある。肺に重篤な合併症が起こる前に早期にHCTを行えば、利益を得ることができる可能性がある。
 
 
【予後】
 感染症による肺合併症が、HIES患者の死亡原因の第一位で、次いでリンパ腫の順となっている。
 真菌やグラム陰性菌(A. fumigatusやP. aeruginosaなど)が肺に定着する可能性がある。Pneumatoceleに感染が起きると、肺炎、全身性感染、突然の肺出血を引き起こす可能性がある。真菌による血管侵襲は、肺や他の臓器の出血性合併症を伴う真菌性動脈瘤を生じることがある。
 HIES患者のリンパ腫の予後は比較的悪い。移植に関連した肺間質性線維症で死亡する報告もある。